東京地方裁判所 平成11年(ワ)23290号 判決
原告 有限会社X
右代表者代表取締役 A
被告 Y株式会社
右代表者代表取締役 B
右同 C
右訴訟代理人弁護士 立木恭義
右同 上松信雄
主文
一 被告は、原告に対し、七五万七五一八円を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二〇〇〇万円を支払え。
第二事案の概要
一 本件の概要
本件は、在庫商品の保管のために被告からコンテナボックスを賃借したものの、その賃料の支払を滞納していた原告が、賃料滞納開始から二年余りが経過した時点で、被告において右コンテナボックスに原告が残置した商品を廃棄したことについて、債務不履行又は不法行為を理由に二〇〇〇万円の損害賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 被告は、平成八年一〇月当時、コンテナボックスを賃貸する業務を行っていた。
2 被告は、平成八年一〇月三日、原告に対し、コンテナボックス一台を月額一万円の賃料で貸し渡した(ただし、期間については、原告は定めがなかったと主張し、被告は期間は一年間であると主張している。)。
3 被告は、同月七日、原告に対し、コンテナボックス一台を月額一万円の賃料で貸し渡した(ただし、期間については右に同じ。)。
4 原告は、賃借した右各コンテナボックス内にその所有に係る荷物を保管した(ただし、荷物の内容について被告は知らないと主張している。)。
5 原告は、被告に対し、平成八年一〇月分から平成九年一月分までの各コンテナボックスの賃料を支払ったものの、同年二月分以降の賃料は滞納し、一切支払わなかった。
6 原告担当者D(原告担当者という。)は、平成一〇年一月ころ、被告に対し、電話で賃料の滞納を詫びた。
7 平成一一年一月末ころ、被告は、原告が右各コンテナボックス内に保管した荷物を廃棄処分した。
三 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点1
被告が原告所有の荷物を処分したことの適法性の有無
(一) 被告の主張
被告は、原告にコンテナボックスを賃貸する際に、契約期間が満了後、三か月を経過しても、原告により荷物の回収がなされない場合、原告が当該荷物の所有権を放棄したものとみなし、被告において荷物を処分しても原告は一切異議を申し立てないとの合意(本件合意という。)を、口頭で原告とした。
本件各コンテナボックスの賃貸借期間は一年間であり、しかも、原告は、当初の四か月分しか賃料を支払わなかったが、被告は、平成一一年一月まで荷物を保管した上、同月下旬に至り、本件合意に基づき、本件各コンテナボックス内にあった荷物を廃棄処分した。
被告の廃棄処分は、本件合意に基づくものであって何ら違法ではなく、被告が債務不履行責任や不法行為責任を負ういわれはない。
(二) 原告の主張
本件各コンテナボックスを賃借する際、被告担当者から被告が主張するような契約条件について説明を受けたことはない。賃貸借期間についても説明を受けなかった。
被告は、賃貸人の義務に反し、原告に無断で原告所有に係る商品を処分したのであるから、債務不履行責任又は不法行為責任を負うことは明白である。
2 争点2
原告に生じた損害
(一) 原告の主張
原告は、別紙倉庫預入物品立証資料記載のとおりの在庫商品を本件各コンテナボックスに保管していたところ、その商品の再調達価格は合計二〇〇一万六七六〇円を下らない。
そこで、そのうち二〇〇〇万円の損害賠償を求める。
(二) 被告の主張
原告の右主張は争う。
3 争点3
原告の本訴請求は権利の濫用に該当するか否か。
(一) 被告の主張
当初の四か月分のみ賃料を支払ったにすぎず、その後二年余りにわたって賃料を支払わなかった原告が、保管義務の懈怠を理由に債務不履行を主張し、あるいは不法行為を主張して多額の損害賠償を請求するのは権利の濫用である。
(二) 原告の主張
被告の右主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 被告が、原告に賃貸した本件各コンテナボックス内に存在した荷物を平成一一年一月末ころ廃棄処分したことは当事者間に争いがない。
右廃棄処分は、コンテナボックスの明渡しを法的手続によらず、自力で実行したものであるが、被告は、原告との本件合意に基づく措置であるから適法であると主張し、原告は右合意の存在を否認するので、まず、本件合意の有無から検討する。
2 争いのない事実に加え、証拠(甲一〇、乙一、乙二の一及び二、乙四、乙六、乙九、証人E、証人D)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、平成八年春ころに、遊休地の利用を目的として、コンテナボックスを購入し、それをトランクルームとして賃貸する業務を開始した。コンテナボックスの中に何を入れるかは賃借人の自由であり、鍵も賃借人に渡して荷物の出し入れも自由にできることにした。
(二) 右の業務を始めるに際し、被告代表者は、賃料を支払わずに行方不明となる賃借人がいることから、契約期間満了後、所定の期間が経過しても荷物の回収が賃借人よりなされないときは、被告がコンテナボックス内の荷物を処分できる約束をするよう、同業者から指導されていたこともあって、コンテナボックスの賃貸業務を担当する職員にも、その旨を指示し、遅くとも平成八年一二月ころからは、右の合意を契約書に明記するようになった。
(三) この間、平成八年一〇月三日及び同月七日に、被告は、原告に対し、本件各コンテナボックスを月額一万円の賃料で貸し渡した(争いがない。)。被告の当時の担当者は、E及び「F」という女性従業員であり、Fは、原告担当者に対し、日頃の上司の指示に基づき、口頭で、契約期間終了後、三か月が経過した後にコンテナボックス内の荷物が回収されない場合は、被告において右荷物を処分する旨を告げた。しかし、原告担当者と被告担当者とは、本件各コンテナボックスの賃貸借について契約書を作成しなかった。
なお、被告は、賃貸借期間について一年間の約定であったと主張するものの、証人Eは、一、二か月の短期の契約だったと思う旨矛盾する証言をし、証人Dは期間の定めはなかったと証言しているから、被告主張の賃貸借期間を認めるに足りる確たる証拠はなく、結局のところ、本件各コンテナボックスの賃貸借は期間の定めのない賃貸借であったと認めざるを得ない。
(四) その後、被告は、平成八年一〇月分から平成九年一月分までの賃料を支払ったものの、会社経営状態が悪化したこともあって、平成九年二月分からの賃料は一切支払わない状態となり、平成一〇年九月には新宿所在の店舗からも撤退し、実質的に営業活動を停止した。
この間、被告担当者は、原告に対し、電話で未払賃料の催告をしようとしたが、当初は回線が通じていたものの連絡が取れず、その後は回線自体が通じないようになった。
(五) 原告担当者は、平成一〇年一月ごろ、一度だけ被告会社に電話を入れて賃料の未払を詫びた。しかし、その後も依然として原告は賃料を支払わなかった。
(六) 原告担当者は、平成一一年一月ころ、二年余りの賃料滞納が気になったこともあって被告会社付近を訪れ、本件各コンテナボックスが存在することを確認したこともあった。しかし、それ以上に被告と賃料未払の件やコンテナボックスの契約関係について話し合うなどの措置は講じなかった。
(七) 平成一一年一月末ころ、被告は、本件各コンテナボックス内にあった原告の荷物(商品)を廃棄処分した。
(八) 原告担当者は、同年七月ころ、被告を訪れ、担当者から同年一月末に原告の荷物を処分した旨を聞いた。
3 右の事実によれば、本件各コンテナボックスの賃貸借に際し、原告と被告との間には、口頭とはいえ、被告主張に係る本件合意が成立していたと認めるのが相当である。
原告は右事実を否認し、証人Dも同旨の証言をする。しかし、被告代表者の陳述(乙九)や証人Eの証言を裏付けるように、被告は、遅くとも平成八年一二月の時点からは契約書に本件合意と同旨(処分までの待機期間が一か月か三か月かはともかくとして)の合意を明記するようになっていることが認められる。一方、証人Dの証言は、コンテナボックスの賃借に際し、契約条件の説明は賃料の説明だけで何もなかった、平成一〇年一月に被告に賃料未払を詫びる電話を入れた際も、賃料未払が続いた場合について何も説明がなかった(既に賃料未払が継続していたのであるから、何らかの対応措置の話が出るはずである。)というものであって、全体として交渉過程の説明が不自然であり、そのまま受け入れることができない。
4 右のとおり、被告主張の本件合意が存在したものと認められるが、本件合意は、契約期間が満了し、その後三か月が経過しても荷物の回収がなされない場合、法の定める手続によらずに、残置された荷物の所有権は放棄されたものとみなし、被告において自力救済としてコンテナボックスの明渡しを行うことを許容する合意と理解できる。
しかし、自力救済は、原則として法の禁止するところであり、ただ、法律の定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において、その必要の限度を超えない範囲において例外的に許容されるにすぎない(最高裁昭和四〇年一二月七日第三小法廷判決・民集一九巻九号二一〇一頁)。したがって、被告の処分行為が本件合意によってなされたものであったとしても、被告の処分行為が当然適法となるわけではない。本件合意は、自力救済が許容される条件が満たされる限度において有効であると限定的に解釈するのが相当である。
そこで、さらに進んで、被告の処分行為が、自救行為として許容されるか否かについてみるに、原告は、二年余りにわたって賃料を滞納し、連絡がとりにくくなっていたという事情が認められるものの、被告は、法律の定める手続、すなわち、訴訟を提起し、勝訴判決に基づく強制執行を行うことができるのであって、被告の主張や本件全証拠をみても、右の手続によっては被告の権利を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情があったと認めることはできず、廃棄処分の社会的相当性を肯定することはできない。
被告は、長期の賃料の滞納という事実から本件処分行為の適法性を指摘する。しかし、債務不履行があったからといって自力救済が直ちに適法となるものではないことは明白であって、被告の右主張は採用できない。
付言するに、前記認定のとおり、賃貸借期間の定めがなかったと認めざるを得ない本件各賃貸借契約は、いつでも解約できるとはいえ(民法六一七条)、解約の意思表示をしなければ契約は終了しないし、賃料不払を理由とする債務不履行解除も、解除の意思表示をしなければ契約は終了しないのであって、これらの意思表示すらなされていない本件にあっては、そもそも本件合意にいう「契約期間が満了した」との事実自体を認め難いのである。
5 右によれば、被告は、他人の財産権を違法に侵害したものとして不法行為(民法七〇九条)に基づき、原告が被った損害を賠償する責任を負うというべきである。
二 争点2について
1 そこで、次に原告の被った損害及び賠償額について検討する。
原告は、別紙倉庫預入物品立証資料記載のとおりの物品を本件コンテナボックスに保管しており、これを再調達するとすれば、総額二〇〇一万六七六〇円の費用がかかるので、同額の損害を被ったと主張し、一応これに沿う証拠(甲五、甲六、甲八、甲一一)がある。
右証拠を総合すれば、原告が本件各コンテナボックスに保管した荷物は別紙倉庫預入物品立証資料記載のとおりであると認められる。
2 しかし、物品毀損による損害は損壊当時の物品の時価を基準に算定されるべきである。平成一一年一月当時の商品の時価を、購入時期、購入価格及び経年に伴う減価を踏まえて的確に把握する証拠が見当たらない本件にあっては、会社が有する商品の価値を把握するため、原告の各事業年度における期末商品棚卸高(棚卸資産期末現在高)を参考にせざるを得ない。
証拠(甲九・法人税確定申告書及び決算報告書)によれば、原告の平成八年一〇月一日から平成九年九月三〇日までの事業年度(原告が商品をコンテナボックスに保管した期間と重なる時期にある。)では、原告の期末商品棚卸高は三七八万七五九〇円にすぎないことが認められる。また、証拠(甲六)によれば、原告は商品を自社倉庫と本件各コンテナボックスに保管していたことが認められる。そうすると、平成九年九月三〇日の時点で、原告が保有した商品の価値は、自社倉庫保管分及び本件各コンテナボックス保管分とを併せて合計三七八万七五九〇円であるから、本件各コンテナボックス保管分の商品の価格は、右全体価額に、甲第六号証から求められる自社倉庫保管分の商品価額と本件各コンテナボックス保管分の商品価額との比率(おおむね三対二)を乗じて推計し、一五一万五〇三六円と概算するのが相当である。そして、右価額をもって平成一一年一月時点での本件各コンテナボックス保管分の商品の価格と推認せざるを得ない。
もっとも、証人Dは、被告に預けていた商品を法人税確定申告書ないし決算報告書には掲載しておらず、それは資産評価には資本金以外を入れてはいけないと思っていたからだと証言する。しかし、決算報告書(甲九参照)の貸借対照表中の「資産の部」などに商品の項目が記載されていることに照らしても、右証言は明らかに不自然であって採用できない。
3 右のとおり、原告は、被告の処分行為によって一五一万五〇三六円相当の損害を被ったものと認められる。
しかし、被告に全額を賠償させるのは相当ではなく、過失相殺を検討すべきである。
前記認定のとおり、原告は、当初の四か月分は賃料を支払ったものの、以後、二年余りにわたって賃料を滞納していたものであるが、この間、わずかに一度、被告に電話をかけただけであって、資金難が原因とはいえ、未払金を払う真摯な努力もせず、被告と事態の打開を図る相談も行わないまま、結果として平成一一年一月まで商品を本件各コンテナボックスに保管することを強いた原告の態度は、商人としての適格性を疑わしめるに十分である。この不誠実極まりない原告の対応が被告の処分行為を誘発したという意味で、原告の過失は軽視できず、その他、被告が商品を処分するに至った経過など本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告の過失割合は五割と認めるのが相当である。
したがって、被告が賠償すべき損害額は七五万七五一八円となる。
三 争点3について
被告は、原告の本訴請求が権利の濫用になると主張する。しかし、被告の自救行為が正当とされない限り、被告は自らの処分行為について違法との評価を受け、それに伴う不法行為責任を負うことは明らかである。被告の主張内容を考慮しても、原告の本訴請求が権利の濫用になるとはいえない。
したがって、被告の右抗弁は採用できない。
四 結論
以上の認定及び判断の結果によれば、原告の本訴請求は、損害賠償として七五万七五一八円の支払を命ずる限度で理由があるから認容し、その余の請求は棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 中山孝雄)
別紙<省略>